先日あるデザイナーの集まりの中で、15年ほど前に制作されたビデオを見る機会がありました。これは某電機メーカーが、自社の技術が将来的にどのような製品を生み出し、人々の生活をどのように豊かにするかといったビジョンをドラマ仕立てにまとめたもので、5分程度のストーリーが数本、近未来のある家族の生活を通して描き出されていました。
ビデオには様々な機器や設備が登場していましたが、いまだに実現されていない(≒今後もまず実現されない)ものもあれば、今となってはもう必要性を感じられなくなっているものも。面白かったのはインターネット、パソコン、携帯電話がこれほどまでに普及して一般化していることが予測されていなかったこと。2010年の現実世界では個人がいつでもどこでも巨大な情報網にアクセスできるようになっていますが、これが15年前の予測との最大のギャップかもしれません。インターネットの爆発的な普及は1996年か1997年頃。それまで一般の人には知られていなかったインターネットが一気に当たり前の事になり、時を同じくして携帯電話も普及しました。このビデオが作られたのはその数年前のはずですが、ネットの普及期をはさんだ15年間で、思い描く未来像は大きく変わったのではないでしょうか。
過去にイメージされた未来像を後から振り返ってみるのは(既に未来を知ってしまっている者としての意地悪な態度ではなく)純粋に面白く感じられます。ついこのあいだ読んだ本。「図説 20世紀テクノロジーと大衆文化(柏書房/原克著)」こちらは実際に製造あるいは試作された「未来の」テクノロジーの集大成。読んだと言うよりは眺めたと言った方が適当かもしれません。300ページにわたって図版で埋め尽くされているので。よくぞここまで集めましたと感嘆すべき内容です。
初期のコンピュータであるENIACやリニアモーターカーの実験機なども載っていますが、見ていて面白いのはアルコールランプで動く扇風機、大掛かりな大リーグボール養成ギプスのような遊泳訓練機、座ったまま移動できるローラースケート、両手を挙げると銃弾を発射する防弾チョッキ、歩行者をすくいとる自動車のバンパーなど、今見ると(もしかすると当時でも)珍妙な発明品の数々。珍妙には見えますが全て豊かな生活を実現を夢見て大まじめに考えられたモノなのでしょう。
この本は、冒頭にある著者の言葉によれば「科学の図説ではなく、科学イメージの図説」。決して専門知識を持った科学者による未来予測ではなく、その時代の大衆にとってイメージされた科学の共通イメージを、作られたモノを通して俯瞰する事ができます。大量の図版を全て見終わった頃には、20世紀の一般大衆にとって科学技術とはどのようなイメージだったのか、テクノロジーによってどのような問題の解決を期待したかが、漠然とながらも伝わってくるようです。
ちなみに私が子供の頃の子ども向け科学図鑑などではエアカー、テレビ電話、宇宙旅行などがだいたい定番のイメージでした。
テレビ電話は一般人でも体験できるようになりましたね。
参考書籍
[図説20世紀テクノロジーと大衆文化]
原克(著)
柏書房
ISBN978-4-7601-3335-2